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地球上では、森林や里山などの陸上域、そして、川、湖、干潟、海などの水域に様々な生きものが暮らしています(生物多様性)。その中で人々は、それぞれの土地にある生態系に支えられて、地域独自の衣食住、言葉、信仰、芸術など多様な文化―生活様式―を育んできました(文化多様性)。また、このような人の文化的な営みが田んぼや水路などの環境を形成し、そこに多様な生きものが息づくというように、自然と人間(文化)は互いを活かしつながり合って存在しています。
こうした自然と文化のつながりは、以前は伝統的な生活様式を保った農村などで当然のように存在していましたが、近年、その多くが急速に失われつつあります。これまで、多様な自然と文化の消失を世界レベルで防ぐために、例えば生物多様性条約、無形文化遺産保護条約など、自然や文化それぞれの分野で保全に向けた様々な取組が行われてきました。しかしながら、自然と文化は別々に存在するのではなく、つながり合って存在している場合が多いことから、両者を一体的に捉えることでより実効的な保全が可能になるように思えます。
そこで、自然と人間(文化)が互いを活かしながら存在する相互作用関係に注目し、それを一体的に保全しようとする「生物文化多様性」という分野横断的な考え方が新たに生まれてきました。
皆がより便利な生活を求めて同じような経済活動を進めていくと、限りある地球環境の中で資源の枯渇や多様な生態系の消失に直面し、人間の生存そのものにも大きな影響を与えてしまいます。将来にわたって社会が発展していく「持続可能な発展」のためには、自然を一方的に消費するのではなく、自然と人間が互いに活かされ共存する新しい社会のあり方が必要です。
また、農林水産業、まちづくり、環境教育、観光などの地域の特色を生かした活動を通じて、地域特有の自然とそれに根差した文化を上手く紡いでいくことが、これからの地域活性化、そして持続可能で豊かな地域づくりに欠かせません。生物文化多様性が保全された地域が広がっていくことは、世界全体の持続可能な発展を推進する力にもなります。
このように、持続可能な社会という観点からも「生物文化多様性」の考え方が今注目を集め始めています。
生物文化多様性の減退は、自然と伝統文化が比較的色濃く残る地方においても問題になっています。
都市部への人口流出などによる地方の過疎化により、農林水産業や祭りの担い手が減少し、そのいくつかは存続が困難になっています。加えて、人々のライフスタイルの変化とともに、地方においても自然と共生していたかつての伝統的な生活様式が崩れつつあります。このような地方における文化の衰退は、文化と共生関係にあった生態系の変化をもたらしており、結果としてその土地で維持されてきた生物文化多様性を徐々に消失させてしまう事態を生んでいます。
そこで、自然を賢く利活用することで、豊かな自然と文化を守りつつ人を呼び込み地域が活性化する、新しい地域モデル(生物文化多様性地域モデル)の創出が課題となっています。
※参考
「生物多様性と文化多様性をつなぐ」 ユネスコ-生物多様性条約事務局共同プログラム(外部リンク)
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