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更新日:2010年7月13日

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基調講演「なぜクマは人里に出てくるのか」

米田  政明((財)自然環境研究センター研究主幹)

川県では、2004年には181頭、2006年には85頭のツキノワグマが有害捕獲されました。これは、1950年から1999年までの年平均捕獲数45頭(狩猟と有害捕獲の合計)を大きく上回る数です。全国的にも2006年には、有害駆除によるツキノワグマの捕殺数が4,340頭と、これまでの最大であった1970年の2,830頭の約1.5倍の捕獲を記録しました。こんなにツキノワグマを捕獲して大丈夫か、なぜ捕獲数が増加しているのだとの疑問を持つ方も多いでしょう。

キノワグマはイヌやネコと同じ食肉類の仲間ですが、2000万年ほど前から植物食に適応した独自の進化の道をとり大型化してきました。ツキノワグマは100種類以上の植物を採食することが知られています。その中でもドングリ(堅果類)が重要で、世界の分布域はカシ・ナラ類の分布と対応します。しかし、消化管の機能・形態が完全には植物食に適応してないためエサを大量に採食する必要があります。ブナやミズナラの実なりは年により変動します。豊作の年の秋には、ツキノワグマはほぼ100%ドングリに頼っています。ところが、凶作の年には山にエサが少ないため、広い範囲を歩き回って少ないドングリを拾い集めるか、カキやクルミなど他のエサを探す必要があります。このため人里への出現が増え大量出没となり、人身被害と有害捕獲が増加する原因となります。これまでにも、北陸地方では2004年と2006年以外にも、1970年、1987年などに大量出没-大量捕獲がありました。

も、近年の人里への出没増加は、ドングリの実なりの変化だけが原因ではないようです。環境省は、大型哺乳類の全国分布調査を1978年と2003年に実施しました。北海道を除く地域でツキノワグマの生息情報があった割合は、1978年の28%から2003年には34%と増加したことが明らかになりました。北陸地方でも宝達丘陵や福井県の丹生山地で分布が拡大しています。ツキノワグマの生息数を正確に求めることは難しいのですが、いくつか県での調査では個体数も増加傾向にあります。このように全国的には分布域と生息数は漸増傾向にあり、これが人里出没増加にも影響していると考えられます。また、いくつかの仮定から、今後の全国のツキノワグマ年間捕獲数を1990年代の平均に相当する1,500頭程度とすれば、2011年ごろには2006年の大量捕獲以前の生息数にまで回復すると予測され、全国的な大量出没の再発が危惧されます。

キノワグマによる人身被害は増加しています。全国の負傷者は1990年代を通じて年平均21名でしたが、2004年に111名、2006年に145名の負傷者があったこともあり、2000年代の年平均負傷者数は70名に増加しています。死亡者も1990年代の年平均は0.5人でしたが2000年代には1.3人に増加しました。この負傷者の増加には、ドングリ凶作年の人里への出没増加に加え、里山二次林の変化が影響していると考えられます。燃料革命により放置された里山は、樹齢40年以上の森林となり、ツキノワグマのよい生息地となりつつあります。人とクマのすみ分けには、里山の森林管理とそこに分布を広げてきたツキノワグマを元の生息地に追い返すことが重要です。

川県では、保護管理によりここ20年間ほどはツキノワグマ個体群の維持に成功し、個体群は漸増してきたと評価できます。今後は、被害防止のため、中能登地域などの分布拡大前線で捕獲を強化し、ツキノワグマの分布域管理を行うとともに、捕獲数管理を適切に実施することによりコアとなる個体群の維持を図ることが必要です。

 

お問い合わせ

所属課:生活環境部自然環境課 

石川県金沢市鞍月1丁目1番地

電話番号:076-225-1476

ファクス番号:076-225-1479

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