―上海駐在員便り 2020年12月―

貴州省ビッグデータ産業視察ミッション

10月21日から23日にかけて、日本の駐中国自治体事務所の代表団が、成長著しい「ビッグデータ」を主要テーマとして貴州省を訪問しました。今回の代表団は、日本貿易振興機構（JETRO）成都事務所が主催し、日本国駐重慶総領事館、日本国自治体国際化協会（CLAIR）北京事務所、石川県を含む13の自治体事務所が参加しましたので、今号ではその様子をお伝えしたいと思います。

■貴州省とは

みなさんは貴州省をご存じでしょうか。中国本土には31省ありますが、その中でも貴州省は日本であまり知られていません。貴州省は中国の南西部に広がる「自然と文化」が豊かな人口約3,600万人の土地です。アジア最大の滝「黄果樹瀑布」や、2018年に自然遺産に登録された「梵净山」を含む4つの世界遺産があります。また、中国は55の少数民族がいますが、貴州省にはミャオ族をはじめとする17の少数民族がおり、古くから多様な文化を育んでいます。

一方で、中国国内において、これまで「最貧の省」とされていた地域でもあります。省全体が山岳地帯（総面積の73%がカルスト地形）となっており、地理的にも発展が難しい土地と言えます。そのような地域が、近年著しい変化を遂げております。省都の貴陽市に降り立つと、高層ビルや巨大な商業施設が立ち並び、至る所に高速道路が張り巡らされております。そして現在、貴州省の代名詞となっているのが「ビッグデータ」です。

■先進的ビッグデータ産業

近年、貴州省政府はビッグデータ産業の発展に力を入れており、インフラを整備して「総合試験区」を構築し、ビッグデータ関連企業を誘致・サポートしてきました。また、貴州省は適度な気温や澄んだ空気などの良好な気候、地震等の災害の少なさ、電力や通信の確保のしやすさ等、（ビッグデータに欠かせない）データセンターの設置に適した環境であり、テンセントやファーウェイ、アップルなど、世界的大企業のデータセンターが建設されました。

実際に、現地にあるNTTデータや中国移動（通信会社）等の先端研究施設や企業を訪問すると、ビッグデータを活用した交通管理システムによる渋滞緩和や河川管理システムによる無人・省力化、自動運転車の開発など、高度なレベルでさまざまな実証実験が繰り返されておりました。なかでも特に印象に残ったのは、中国のローカル企業によって、遠隔医療システムが実用化されていたことです。視察時には、その場で簡易キットを使って採取した血糖値等のデータを携帯で送信し、都市部の医者を任意に選択してテレビ電話形式で問診するシステムの実演がなされました。ビッグデータとAIの連携によって診断の確度を高める取り組みもなされているようです。これらのシステムはコロナ禍や過疎地においては特に有効だと感じました。

今回の視察を通して、省を挙げての大規模なインフラ整備や、IT関連企業が集積して先端的な研究開発が相当なスピード感で進んでいることを改めて体感することができました。同時に、（セキュリティー対策は万全といいつつも）個人情報保護の観点では少し恐さも感じるとともに、より産業の裾野を広げるためには、データ収集・管理するためのハード面だけでなく、さらにビッグデータを利活用するためのデータサイエンティストなどの人材育成機能の強化が課題になってくると考えます。なお、中国に進出している県内企業のなかには、ビッグデータに取り組み始めているIT企業もいますので、（いきなりのマッチング等は難しいと思いますが）先進事例として貴州省から学べることもあると考えております。また、日本で課題となっている行政デジタル化とも無縁ではありません。

■貴州省との交流

今回の訪問団は、コロナ発生以降、貴州省にとって重点交流国の中で最大のものとなり（参加府県を合計すると日本のGDPの34％）、貴州省政府の温かい歓迎を受けるとともに、現地メディアでも多くの報道がなされました。譚炯副省庁との会見においては、「日本の各地域とは、経済面だけではなく、文化や人的交流など、多面的に交流を行っていきたい」旨の意向が示されたほか、外事弁公室との交流の際に各府県の紹介をしたところ、石川県と貴州省には伝統文化や豊かな自然といった観点で共通項があるとしたうえで、「貴州省は環境保全の面でも力を入れているので、循環型エコシステムの構築に向けた取組も紹介したい」とのことで、今後の継続的な関係構築に前向きな姿勢が見られました。なお、（佐賀県とは以前から交流があるものの）現時点で貴州省と正式に友好提携している日本の都道府県はなく、今回の交流を機に日中双方の地方政府間の友好関係が進展することが期待されます。

ビッグデータ総合試験区